インフルエンザ予防内服
インフルエンザBが流行しています
インフルエンザAが終息したと年始は思っておりましたが、ここ最近はインフルエンザBの感染が流行しております。
受験や資格試験、卒業・進級がかかった大切な時期を迎えている方にとって、インフルエンザは「ただの風邪」ではないかと思います。
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体調を崩すこと自体がつらい
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数日間の高熱で集中力・体力が一気に落ちる
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学校や塾を休まざるを得ない
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直前期の欠席や体調不良が大きな不安になる
そのため受験生の方だけでなく色んな方が「絶対にかからないように」「家に持ち込まないように」日々注意を払っておられると思います。
私自身もその1人です。病院に勤めているときも気をつけていましたが、今は熱が出ても替えがいる状況ではなくなりました。
日々かからないように努力されている皆様、本当にお疲れ様です。
当院としても、皆さんが安心して大切な日を迎えられるよう、医学的にできるサポートを提供したいと考えています。
予防の基本は「感染対策の積み重ね」です
インフルエンザ対策といえばワクチンを思い浮かべる方が多いと思いますが、実際には
ワクチン+日常の感染対策の積み重ね
が最も現実的かつ最も強い対策です
特に家庭内では、ちょっとした習慣が感染の広がり方を大きく変えます。
家庭でできる感染予防
すでに実践されている方が多いと思いますが、改めて整理します
① 手洗い:最重要
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帰宅後すぐ
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食事前
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トイレの後
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石けんで20秒以上:残りやすいのは指先・指の間・親指・手首
【日本食品衛生協会】
② マスク:「症状がある人」は最優先
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咳・鼻水がある家族は家の中でも着用
- 食事も可能であれば症状ある人は別にする
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“うつさない努力”が家庭内感染対策の中心です
③ 換気
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1時間に1回、数分でもOK
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可能なら2方向換気
④ タオル・コップの共有を避ける
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家庭内感染を広げる典型的な要因です
- ノロを含めた胃腸炎感染、溶連菌、アデノウイルス感染などでもとても大事な感染予防です
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洗面所のタオルは「個人用」が推奨されます
⑤ 寝室を分ける(できる範囲で)
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別室が難しい場合でも、寝る向きを変えるだけでも一歩です
⑥ 睡眠(免疫は睡眠で守られます)
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受験期ほど睡眠が削られがちですが、寝不足は感染リスクを上げます
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「勉強時間」より「休息の質」が体調の土台になります
どれだけ気をつけても感染してしまうことがあります
感染対策を頑張っていても、インフルエンザにかかってしまうことはあります。
学校・塾・職場・公共交通機関など、社会生活を送る以上、完全に避けるのは簡単ではありません。
もしご家庭内で感染者が出てしまっても、
「努力が足りなかった」
「もっと気をつければよかった」
と責める必要はありません。
大切なのは「その後にどう広げないか」です。
家族にインフルエンザが出たら、まずやること
家庭内にインフルエンザ患者さんが出た場合は、次の3点が重要です。
① 早期受診・早期治療(目安:発症後48時間以内)
抗インフルエンザ薬は、早く開始するほど効果が期待できます。
抗インフルエンザ薬自体は飲まなくても治ります、ただ少しでもウイルス量の増殖を抑えられる、症状としても1−2日発熱が早く治ることがわかっています。
② 家庭内の隔離(可能な範囲で)
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部屋を分ける
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使用後のドアノブ・リモコンなどを簡単に消毒
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食事は可能なら時間をずらす
③ 「濃厚接触者」にハイリスクがいないか確認
特に以下の方が同居している場合は慎重な対応が必要です。
- 免疫が弱い状態(がん治療中、免疫抑制薬、ステロイド等)
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心臓病、呼吸器疾患、糖尿病、腎臓病など
- 高齢者
それでも「どうしても避けたい」場合の切り札:予防内服(暴露後予防)
家庭内にインフルエンザ患者さんが出たあと、まだ発症していない同居家族に対して検討できる手段が
インフルエンザの予防内服(暴露後予防:PEP)
です。これは簡単に言うと、
家族などにインフルエンザが出たあとに、感染した可能性が高い人が発症する前に薬を使って発症を減らせるか検討する方法
です。
実は私はこの1週間ほど予防内服をおこなっています。
予防内服というと新しい方法に感じるかもしれませんが、実は海外では20年以上前から研究が積み重ねられてきました。
予防内服でよく使われる方法:タミフル10日間
よく使用されている方法は、タミフル(オセルタミビル)を一定期間内服する方法です。
実臨床では、家庭内で感染が数日〜1週間程度連鎖することがあるため、
タミフル 75mg/日を10日間内服
という方法が選ばれることが多く見られます。
予防内服は本当に効果があるのか?
ここでは代表的な研究を2つ、できるだけわかりやすくご紹介します。
タミフル(オセルタミビル)の家庭内予防効果:Welliverら(JAMA, 2001)
家庭内でインフルエンザ患者さんが出たときに、同居家族が予防的にタミフルを飲むとどうなるかを調べた研究です。
インフルエンザ発症した患者の同居家族(12歳以上)が、患者さんが発症後できるだけ早いタイミング(48時間以内)でタミフルを一定期間内服するグループと、プラセボ(偽薬)のグループで比較しています。
(研究デザイン:multi regional, double blinded RCT)
結果としてタミフルを予防的に内服した家族では、インフルエンザの発症が大きく減りました。
- 個人ベースの予防効果:protective efficacy 89%(95%CI 67–97;P<.001)
- 世帯ベース(家庭内アウトブレイク抑制):84%(95%CI 49–95;P<.001)
- ウイルス排泄(接触者):84% 抑制 (95%CI 57–95;P<.001)
- 安全性:消化器症状はオセルタミビル9.3% vs プラセボ7.2%で大差なし
もちろん「必ず防げる」という意味ではありませんが、家庭内で患者さんが出た場合でも、適切に予防内服を行うことで発症を減らせる可能性がある、ということです
リレンザ(ザナミビル)でも予防効果があります、Hayden et al., NEJM 2000
予防内服はタミフルだけではありません。Haydenらの研究では、吸入薬であるリレンザ(ザナミビル)を用いた家庭内感染予防が検討されています。
リレンザとプラセボを比較した、こちらもdouble blinded RCTです。
この研究でも、家庭内でインフルエンザ患者さんが出たあと、同居家族が予防的にリレンザを使用した場合と、プラセボと比較しても家庭内の発症が減ることが示されています。
当院では「タミフル」を中心に検討します
リレンザにも研究上の有効性は示されていますが、実際の運用では
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吸入の手技に依存(うまく吸えないと効果が落ちる可能性)
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小児や高齢者では難しいことがある
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喘息・COPDなど呼吸器疾患がある方は慎重に判断が必要
といった制限があります。
そのため当院では、予防内服をご相談いただいた場合、基本的には
内服で確実に使えるタミフル(オセルタミビル)
にしています。
予防内服のデメリット(重要です)
予防内服は便利に見える一方で、注意すべき点があります。
当院ではこのデメリットを重視し、適応を慎重に判断します。
最大の注意点:乱用は耐性化につながり得ます
抗インフルエンザ薬は、使い方によっては
薬が効きにくいウイルス(耐性)が増える可能性
があります。
耐性が増えると、将来的に
- 「自分の治療が難しくなる」
- 「周囲に広がる」
- 「社会全体で不利益が生じる」
という問題につながります。そのため当院では、
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不必要な予防内服は行わない
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「繰り返し」や「長期の予防目的」での処方は推奨しない
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本当に困っている状況に限定して検討する
という方針です。
その他のデメリット
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副作用(吐き気、腹痛、下痢など)
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完全には防げない
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薬に頼りすぎることで感染対策が緩むリスク(これが一番怖い落とし穴です)
当院での「予防内服」相談について
予防内服は「治療」ではなく「予防目的」であり、保険診療の対象外です。自費対応します。
費用
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診療費:3,000円
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薬代:2,000円
(合計:5,000円)※状況により提案内容が変わることがあります。
相談の対象(例)
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受験・資格試験を控えている
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海外出張・長期出張を控えている
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大切な仕事(舞台、試合、発表、業務の山場など)がある
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家族に重症化リスクが高い方がいて感染を避けたい
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介護者が倒れると生活が成立しない状況
※「不安だから常に飲みたい」「流行期は毎月欲しい」などの形は、耐性化など将来の不利益につながるため推奨していません。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 予防内服をすれば100%インフルにかからないですか?
いいえ。予防内服は研究で効果が示されていますが、100%防げるものではありません。
また、発熱があっても原因が必ずインフルとは限りません(他のウイルス感染症もあります)。
Q2. いつ相談するのがいいですか?
原則、家族内にインフル患者さんが出た直後、48時間以内です。
時間が経つほど予防効果は落ちる可能性があります
Q3. 家族全員が予防内服した方がいいですか?
全員に必要とは限りません。当院では、状況を伺った上で検討します。
Q4. 予防内服中に発熱したらどうすればいいですか?
予防内服中でも発症することはあります。
発熱・咳・強い倦怠感が出た場合は、速やかにご相談ください。
必要に応じて検査・治療へ切り替えます。
Q5. 副作用はありますか?
タミフルでは、吐き気・腹痛・下痢などの胃腸症状が出ることがあります。
予防目的の方は普段元気な方が多いため、副作用が気になりやすい点も含めて説明します。
皆様が健やかにお少しになられることが一番ですが、ご不安やご懸念がある方はぜひご相談ください。
